東京の街散歩

TOKYO NO MACHI-SANPO

地下鉄東銀座駅・歌舞伎座

信州飯田の水引

 

 東京の地下を見事なほどの複雑さで巡っているのが、東京メトロと都営交通の地下鉄です。地下鉄の利便性の一つに、その構造から様々な施設に地下で直結している点があります。

 東京メトロ日比谷線と都営浅草線の乗換駅でもある東銀座駅は歌舞伎座に直結しています。日比谷とか浅草とか、更には東銀座で歌舞伎座と観光には心躍る単語が並びますが、それはともかく駅を抜けるとそこは歌舞伎座の地下2階、木挽町広場というスペースです。コンビニエンスストアや老舗のお弁当屋さん、コーヒーショップもあり便利な空間を賑やかにしているのは様々なお土産屋さんの出店です。

 そんな中、信州飯田の水引との看板の下で職人さんの見事な口上で我が家の家紋の由縁を聞き、ほうほうなるほどと頷いた後水引の話も伺った。

 結ぶという日本の文化を体現する一つが水引細工。さっと結んでくれた梅の花は正面から見ると中心が魔よけの五芒星で、子どもたちの無事を願っているのだそう。そして解けない蝶々結び。

 江戸時代、山深い信州飯田では、囲む豊富な山林は天領でありそれを生かすことはかなわず藩を維持する産業に窮していた。そこで藩主は、かねてより品質の良さが評判の和紙作りを発展させ、それを結った元結や水引の生産を始めたのだという。なにしろ信州飯田は日本を東西に分ける天竜川沿いであり、軽量な和紙加工品を日本各地に出荷する地の利にも恵まれていたこともあって、一般庶民には贅沢品だった水引はともかく、髷を結う元結は全国シュア50%を超えるブランドに成長したのだそうです。

 髷を落とした明治以降も生産の主軸を水引とし今も続く確固たるブランドを維持する信州飯田の水引なのですが、現代でもなお常に髷を結う必要の場所には元結も納品され続けていると職人さんは言います。そのご縁でこちらに出店していますと、なるほどです。

 

舩津 孝

 

風情

風情

 

 なんとも今更な気がするものの、先日のニュースで日本全国が梅雨明けを迎え、本格的な夏の到来だと伝えていました。些か暑すぎる最近の日本の夏ですが、それでも日が落ちて、チリンと軒下の風鈴が鳴ったりするとふーっと気持ちが落ち着いたりするのは、日本人だからでしょうか。

 その職人を初めて撮ったのはもう20年以上前のこと。百貨店の伝統工芸の広告写真用に江戸川の篠原風鈴本舗に職人篠原儀治を訪ねました。ガラス製風鈴の職人さんで、江戸風鈴の名付け親です。

 その名の通り、江戸の頃から続く吹きガラスの風鈴、宙吹きという技法作られたガラスの外身に内側から施された絵付けと、チリンと余韻を引かない音色が特徴です。最初に撮影した当時は今より狭い作業場で、コークスが1,300度にも燃え上がった炉の中から、ともざおで巻き取った溶けたガラスを、職人は上を向いたり下を向いたりしながら吹き込む息の量と地球の重力で丸い風鈴へと膨らめていました。

 篠原さんが曰く、「風鈴が鳴ったからって涼しくなる訳は無いさね、カランと鳴って風が来たことを知らせてくれるのさ。風が吹きゃあ少しは涼しくなるから。」 なるほど、と頷いていたら、「風情ってやつだね。」と江戸風鈴職人は笑っていました。

 

舩津 孝