記憶と記録と、憧憬と。
「東京の技」という些か大仰な名称のウエブサイトを起ち上げました。フォトグラファーの眼からの職人技のアーカイブが目的のサイトです。
幼かったころ、家に時々やってくる“職人さん”という人たちに憧れを持っていたのです。なにしろ何やら道具をささっと扱って、母が求めた飾り台や、父のスーツを拵えていくのですから、それはもうワクワクでした。大人になってフォトグラファーという職業に就いたことで幸いにも日本中の様々な職人技に触れる機会にも恵まれたわけですが、実は、相変わらず内心ワクワクだったというのは、内緒です。
長い伝統に裏打ちされた職人技は、多くの場合それらしいローケーションの中にあるわけです。例えば広告写真用に“お六櫛”を撮影に向かうと、コーディネーターの運転する車はヒノキの森の山道をどんどん進んで行くんです、木曽路はすべて山の中かなんて島崎藤村を気取っていると白い蕎麦の花に囲まれた仕事場が見えて来て、フォトグラファー的にニャついたりするわけです。
ところが東京は、最先端と伝統が、しかも両極端で共存しています。変化が激しい大都市ながら、江戸という冠詞のついた伝統の職人技はもちろん、実は先端科学を支える、小津安二郎の映画に出てきそうな町工場が、まだ東京には沢山あるのです。
改めて撮り下ろした写真で、今の記録として、そしてワクワクのお裾分けを感じていただけたらと考えています。
舩津 孝