甘い誘惑
なにも今更改めてカミングアウトもないのですが、私、実は甘党です。つまり甘いモノに目が無いのであります。もちろん塩分や糖分の摂取量が健康を左右する年代であることは重々承知していながらも、例えばコンビニエンスストアのレジ横の誘惑についつい逡巡してしまうのであります。
私の場合、甘いモノ好きなのは遺伝とかの生物学的な要因ではなく、いや勿論それもあるのでしょうが、生活習慣というか環境が主因だったのではと今にして思うのです。なにしろ、同様にやはり甘党だった父は帰宅時に何かしらの甘味を買って来るというのが我が家の日常でした。さすがに毎日という事では無かったと記憶していますが、その頻度はそれに匹敵していたのは間違いの無いところです。
父の手土産は、きっとその時の気分や体調で決まっていたのだろうと想像するのですが、ホカホカのたい焼きだったり団子だったり、ケーキだったりと飽きないチョイスでした。そして意外に高頻度のローテーションだったのが和菓子の上生菓子だったのです。
小さくて、ずっしりとして、細かな細工の施された優しい色のその菓子は、幼かったころの私にとっても少し特別でした。父や母を真似て、生意気に、食べる前に興味津々で上から眺めたり横から見たり、季節感を表したその細工や色のグラデーションを楽しんでから少しずつ黒文字で切り分けて食べていました。
職人の掌の中で、まさに拵えられる上生菓子は食べられる美術品と言うところですが、なにより、上生菓子をはじめとした和菓子は油脂類を含まない分、すこし言い訳のたつ甘いモノでもあるのです。
舩津 孝