東京の街散歩

TOKYO NO MACHI-SANPO

東京都中央卸売市場 築地市場

東京都中央卸売市場 築地市場

 

 いよいよ築地市場の営業が終了です。繁華街に隣接するという特異な立地に、実は意外にお洒落な石畳の床を持つ、鉄道輸送時代の名残の大きく弧を描く築83年の、鮪のセリに代表される世界的観光名所の築地の市場が閉場します。

 11か所ある公設の東京都中央卸売市場の一つである築地市場はその業務を豊洲市場に移転する、事務的に表現すればそういう事なのですが、そこは昭和のオジサンとしては慣れ親しんだ築地という言葉に郷愁と一抹の寂しさも感じるのであります。

 築地市場は当然「市場」ですから、例えば場外市場の店舗からも分かるように青果や漬物、鳥卵等の取り扱いもありますが、やはり築地と言えば、世界最大の取り扱い金額をほこる魚市場がその代名詞でしょう。なにしろ好物の団子屋さんの包装には“築地魚がし”って書いてありますしね。

 『東京の技・食』にそんな築地市場の鮪仲卸を加えました。築地の記憶を兼ねて写真は少し多めです。鮪の仲卸とは、バイヤーであり、そして、止まることなく高速で泳ぎ回る巨大魚を料理人が求める高級食材へと生まれ変わらせる職人たちでもあります。その技と目利きによって切り分けられた“食材”が肉質への的確な助言とともに料理人の手に渡され、“料理”されて我々の口を楽しませてくれるのです。とは言え、なかなか楽しむ機会に恵まれないのは、まあ、それはあくまで個人的都合です。

 豊洲へと市場は移転ですが、仲卸たちには、それは引っ越しです。場所が変わっても職人たちの技は変わらないのですから、きっと、暫くすれば『豊洲魚がし』がアッタリメェーになるのでしょう。今のまま留まり名前も変わらない『築地場外市場』が築地ノスタルジーを受け止めてくれますし。

 

舩津 孝

甘い誘惑

和菓子

 

 なにも今更改めてカミングアウトもないのですが、私、実は甘党です。つまり甘いモノに目が無いのであります。もちろん塩分や糖分の摂取量が健康を左右する年代であることは重々承知していながらも、例えばコンビニエンスストアのレジ横の誘惑についつい逡巡してしまうのであります。
 
 私の場合、甘いモノ好きなのは遺伝とかの生物学的な要因ではなく、いや勿論それもあるのでしょうが、生活習慣というか環境が主因だったのではと今にして思うのです。なにしろ、同様にやはり甘党だった父は帰宅時に何かしらの甘味を買って来るというのが我が家の日常でした。さすがに毎日という事では無かったと記憶していますが、その頻度はそれに匹敵していたのは間違いの無いところです。
 
 父の手土産は、きっとその時の気分や体調で決まっていたのだろうと想像するのですが、ホカホカのたい焼きだったり団子だったり、ケーキだったりと飽きないチョイスでした。そして意外に高頻度のローテーションだったのが和菓子の上生菓子だったのです。
 
 小さくて、ずっしりとして、細かな細工の施された優しい色のその菓子は、幼かったころの私にとっても少し特別でした。父や母を真似て、生意気に、食べる前に興味津々で上から眺めたり横から見たり、季節感を表したその細工や色のグラデーションを楽しんでから少しずつ黒文字で切り分けて食べていました。
 
 職人の掌の中で、まさに拵えられる上生菓子は食べられる美術品と言うところですが、なにより、上生菓子をはじめとした和菓子は油脂類を含まない分、すこし言い訳のたつ甘いモノでもあるのです。

 

舩津 孝