風情
なんとも今更な気がするものの、先日のニュースで日本全国が梅雨明けを迎え、本格的な夏の到来だと伝えていました。些か暑すぎる最近の日本の夏ですが、それでも日が落ちて、チリンと軒下の風鈴が鳴ったりするとふーっと気持ちが落ち着いたりするのは、日本人だからでしょうか。
その職人を初めて撮ったのはもう20年以上前のこと。百貨店の伝統工芸の広告写真用に江戸川の篠原風鈴本舗に職人篠原儀治を訪ねました。ガラス製風鈴の職人さんで、江戸風鈴の名付け親です。
その名の通り、江戸の頃から続く吹きガラスの風鈴、宙吹きという技法作られたガラスの外身に内側から施された絵付けと、チリンと余韻を引かない音色が特徴です。最初に撮影した当時は今より狭い作業場で、コークスが1,300度にも燃え上がった炉の中から、ともざおで巻き取った溶けたガラスを、職人は上を向いたり下を向いたりしながら吹き込む息の量と地球の重力で丸い風鈴へと膨らめていました。
篠原さんが曰く、「風鈴が鳴ったからって涼しくなる訳は無いさね、カランと鳴って風が来たことを知らせてくれるのさ。風が吹きゃあ少しは涼しくなるから。」 なるほど、と頷いていたら、「風情ってやつだね。」と江戸風鈴職人は笑っていました。
舩津 孝